~令和時代の恋人探しは男性ほど急ぐべき~。福井県は特に「男性あまり」って知っていますか?

生命の神秘「男児あまり出生システム」

意外と知られていないことですが、男性の赤ちゃんは女性の赤ちゃんよりも多く生まれます。これはヨーロッパ諸国でも、アメリカでも、中国でも、どこであっても、それがヒトという動物の出生である限り、男児の方が女児より5%多く生まれるのです。その年に女児が100人生まれているとすると、男児は105人くらい生まれています。
このような一見アンバランスな生まれ方は、どうして起こるのでしょうか?

これは生命の神秘といってもいいシステムですが、男児の方が女児よりも乳児死亡率が高いため、5%くらい女児より多く生まれておかないと、成人した頃に男女が同数にならないからです。そもそも1対1のつがいを前提とした子孫継承のための「男児あまり出生システム」であると考えると、非常に興味深い仕組みだと思います。

国によっては一夫多妻制をとっている国もありますが、ヒトという動物のマッチングシステムは、どうやら1対1マッチングを前提としているようです。遺伝的にみると1対1マッチングの方が一夫多妻もしくは一妻多夫マッチングによる種の存続よりも劣性遺伝が発現しにくくなるため、非常に合理的なシステムであるともいえます。一夫多妻でも一妻多夫でも、同じ片親を持つ「近い遺伝情報を持つ個体」があまりに増えてしまうと、近い遺伝情報同士の男女が出会う可能性が高くなり、その子どもに、生きるためには困難な条件をもたらす劣性遺伝が出現しやすくなります。自然界で生き残りやすい遺伝子を継承するための男児5%余りの仕組み、ということもできます。

一方で、日本も含めて医療先進国では乳児死亡率が非常に低くなっています。ですので、医療が介在しない自然のままであれば、成人までに女児より多く死亡するはずだった男児が生き残った結果として、医療先進国ほど若い男性人口は若い女性人口よりも多く存在しているのです。

日本全体では20代男性が女性より22万人多い

まずは日本全体の状況を2020年の国勢調査の結果からみてみましょう。日本全体でみると、20代男性が20代女性よりも4%多く、22万642人も多く存在しています。

あるタレントさんが人口の総数だけみて、「女性の方が多いから一夫多妻制がいいかな?」などと、男性に都合がよさそうな発言をされたことがあります。しかし、これは人口の年齢構造を全く見ていない人の発言です。上の図表からわかるように、確かに40代までは男性が多い状況にありますが、50代で初めて男女がほぼ同数となり、70代以降は急速に男性が女性よりも早く亡くなって減少していきます。女性の方が長生きであるために、総数では女性の方が多く、女性あまりに見えるのです。

福井県では20代男性が女性の112%も存在

では福井県はどうでしょうか?

日本全体では20代で男性が女性よりも4%(22万人)多いとお伝えしましたが、福井県は4%どころではありません。下の表のように12%も女性より男性が多く存在しています。実に全国平均の3倍の多さで、20代人口の男女割合の差が都道府県レベルで2桁になる県はそう多くありません。

どうしてこのようなことが起きるのでしょうか?

まず10歳未満で見ると、男女比は1:1.06で全国平均より1ポイント多いだけですので誤差の範囲といえるでしょう。しかし、20代で一気に12%へと男女比が拡大します。ここに注目して、さらに詳しく5歳階級での男女比を確認してみましょう。

10代から20代前半にかけて人口数がどんどん減少しています。少子化であるならば、本来は若い世代ほど人口が少ないはずなのに逆の動きです。これは若い男女の県外転出が転入を上回っている(社会減:転入数-転出数<0)ことで人口減が発生しているからです。なかでも、20代前半は際立っており、男女合計では10代後半人口の90%に、男性は92%に、女性に至っては88%になっているのです。

福井県において、女性の方が就職(20歳専門卒就職、22歳4年制大学卒就職)で大きく県外に進出している結果、生まれた時からの男女比がさらに拡大して、男性あまりに拍車がかかってしまっているのです。就職期に福井県を離れていく女性が、男性よりも多いことを知らない方も多いのではないかと思いますが、これが福井県の実態です。例えば、高校のころにいいな、と思っていた女性が10年後には「県外の人妻」になっている、などというケースも少なからず身近であるのではと思います。

都会は女性あまりで戻ってきてくれる??

福井県に限らず、若い男性あまりに拍車がかかっている地方でよく聞く意見として、「女性の方が多く都会に出ているのなら、東京は女性あまりのはずだ。女性あまりで婚活疲れの東京や大阪の若い女性を地元に呼べるだろう(帰ってくれるだろう)」があります。これは典型的な「正常性バイアス」という無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の1つです。

正常性バイアスとは、状況があまりよくない時に不安な気持ちに支配されないために都合よく物事を解釈してしまう偏見を指します。本人は不安を払しょくするために言っている自覚がなく(アンコンシャス)、結構強めに本気でそう考えてしまう点がこのバイアスの怖いところです。

では、「都会は女性あまりのはずだ。女性あまりで婚活疲れの東京や大阪の女性を地元に呼べる」について実態を見てみましょう。

20代人口の男女比が全国平均で4%という中で、東京都はほぼ男女人口の差がなく、大阪府も2%程度の差となっており、男女比的にはベストマッチングな状況といえます。どうしてそんなことが起きるのかというと、答えは簡単で「東京都も大阪府も、そもそも都会は生まれる子どもの数が圧倒的に多いから」です。同じ5%の差でも、東京都と大阪府の10代前半人口を見ると、男女差が東京都は1万3144人、大阪府は8923人に達します。一方、福井県の10代前半人口の6%の男女人口差をみると979人です。

つまり、人口母数の大きな都会で生じる男児あまり数はとても大きな数字になります。そして、その余りをなくしてしまうほどの女性が地方から流入し、転入超過(社会増:転入-転出>0)となることで男女の人口の差がなくなり、都会はベストマッチング状態になっているのです。

この実態を見れば、「都会は女性あまりのはずだ。女性あまりで婚活疲れの東京や大阪の女性を地元に呼べるだろう」は、思い込みからくる誤解発言であることがわかります。

福井で結婚するなら、男性ほど急ぐべき

図表2からわかるように、福井県は20代前半の就職期に県外に多くの女性が出て行って戻ってこない状況です。ですので、もし結婚希望があるならば、男性ほど早くから動く必要があります。全国的にも男性あまりなのでそうですが、福井県の男性ならなおさらです。もし、地元に愛する彼氏がいるならば、就職先を決める際に違った決断をする女性が増える可能性があります。20代前半に生じる「県外に出る若い女性たち」を想定すれば、学校やアルバイト先でちょっといいなと思った女性に積極的にアプローチし、もっといい人がいるかも、などといった先延ばし理由を考えないほうが賢明だと思います。

日本は第二次世界大戦終戦(1945年)後、国外で戦争に散った多くの若い男性兵士人口の欠損で女性あまりが生じ、結婚相手は男性が選べるもの、という風潮がしばらくありました。しかし、終戦後80年も経過した今、立場は完全に逆転しています。若い世代の皆さんのご両親は、20年以上前に結婚されている方が大半だと思います。その頃はまだ東京一極集中も発生していないか初期の段階で、20代前半の就職期に福井県の男性あまりに拍車がかかるなどということがありませんでした。ですので、福井県の若い男性の窮状をわかっていない方が少なくないのが現状です。

もし、あなたの結婚に関して、そのスピード感やお相手選びについて親御さんと話が合わないなと思ったら、親御さんにもこのデータをみせて、「令和時代の貴方らしい結婚」をどうか成し遂げて下さい。

天野馨南子氏

教えていただきた先生

ニッセイ基礎研究所生活研究部
人口動態シニアリサーチャー
天野 馨南子(あまの・かなこ)氏

専門は少子化対策や東京一極集中、女性活躍推進など。 エビデンスに基づく分析や提言に取り組み、政府や地方自治体、経済団体の人口問題関連委員を多数務める。著書に「まちがいだらけの少子化対策」((一社)金融財政事情研究会)など。

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